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第3回:ひずみと力
スプーンの柄を持って、先端にごく少量の砂糖を載せてみます。「スプーンがひずんでいるよ」といったら、「そんな大げさな!」と思われるかもしれません。しかし、載せる砂糖がわずか0.1gであっても、そのひずみを検出する方法があります。金属線を埋め込んだテープのようなものをスプーンに張り付けます。スプーンに貼り付けられたテープは、ひずみによってほんのわずかですが伸び縮みします。この伸び縮みが電気抵抗値の増減として検出できるのです。このテープはストレインゲージと呼ばれています。第二次世界大戦中に米軍で軍用飛行機の翼などの強度を調べるために大量に使用され、それ以来構造物の強度測定に使用されるようになりました。現在では、自動車の耐久試験や本四架橋などの大型構造物の強度測定など、さまざまな分野で広く利用されています。
翼のひずみであれば目でも見えますし、当時の真空管を使った増幅技術でも充分検出できました。しかし、0.1gをスプーンで検出するとなるとそう簡単ではありません。ひずみの量が微少であるということは、当然抵抗値の変化も微小です。温度による抵抗値の変化も無視できなくなってきます。私たちはこの問題と闘って克服し、ストレインゲージ専用の高精度な直流増幅器を開発しました。この増幅器は現在でも私たちの主力製品として、さまざまな製品に組み込まれています。
スプーンに載せた砂糖の例では、ストレインゲージは「重さ」を検出するセンサとして利用されていますが、「重さ」を地球の引力と自転で生じる遠心力の合力と考えると、ストレインゲージは力を検出するセンサとしても使えることになります。ストレインゲージが検出しているのは物質のひずみ量だけなので、圧力やトルク、張力などの「力」をひずみ量に変換する工夫をしてそれぞれ専用のセンサとして実用化されています。
力の検出で特に多いのが、産業用ロボットによる機械の組立現場です。組立作業のなかで、ロボットはねじを締めるのが苦手です。人間がねじを締めるときの正しいやり方は、ねじをねじ穴に軽く当てて逆回しをし、カチッと音がして山と谷がぴったりと合ったところから順方向に回していきます。ロボットにこれをやらせると、時間がかかりすぎて100分の1秒を争う自動組立には向きません。このような理由から、自動組立では可能な限りねじを使いません。板金に棒をたてるときには、狭い穴に力ずくで差し込む「圧入」が使われますし、板金どうしをつなぐときには、ボルトのようなものを差し込んでその頭をつぶす「かしめ」という方法がとられます。いずれも力ずくで固定しようとするわけですから、微妙な寸法の狂いによってはうまく固定されなかったり、ひどいときには部品が変形してしまうこともあります。
このようにして生じた不良品は工程ラインの後で検査してはじく場合もありますが、もっと効率の良い方法があります。組み立てるときに同時に検査も行うのです。正しく圧入やかしめが行われたときの力の変化の様子を計測し、基準波形として記録しておきます。この基準に対してズレが生じた場合には、何らかの異常が起こっていると推測されます。たとえば棒を差し込む穴が小さいとか、逆に大きすぎるとかです。こうして製造過程で製品をチェックしていくと、不良品を最小限のコストでくいとめるというメリットのほかに、製品完成後では見つけにくい潜在的不良品も早期に発見できるという効果もあります。まさに一石二鳥です。
「力管理」というと何トンもある大きい機器を想像しがちですが、非常に小さい力を制御する工程もたくさんあります。代表的な例がハードディスクです。最初に登場したときには、大きさが直径30cm以上あったのですが、今では2.5インチ型(約6cm)でコンパクトディスク(CD)の約半分。それでいて記憶容量は飛躍的に大きくなっています。この小ささを実現するために、磁気記録膜も非常に薄くなっており、同じパソコンの記憶媒体であるフロッピーディスクのようにヘッドを記録膜に接触させて読み書きするわけにはいきません。ディスク静止時には接触していて、回転が始まるとそれが引き起こすわずかな風で浮力を得て浮かび上がるのです。ディスクとヘッドの隙間はわずか10万分の数ミリ以下で、この隙間を正確に保っておかなければいけません。ヘッドの大きさをジャンボジェット機に置き換えて考えると、地上数ミリを常に保って飛行しているようなものです。ものすごい精度です。
ヘッドを支えるサスペンションは金属の板バネですが、ディスクの回転で発生するような弱い風で浮かび、しかも回転が早くなっても浮きすぎないものを作るには大変な技術が必要です。この微妙な作業を助け、どの製品にも均一な張力を持たせる工程にもストレインゲージは使われています。根本を固定したサスペンションの先端に一定の力を加え、しなりぐあいから張力をはかります。はかりながら目的の張力になるように微妙な熱処理をしているのです。
製造ラインの話を続けてきましたが、力計測は私たちの身の回りのいろいろな試験でも活躍しています。最近よく目にするのが、自動車の衝突試験です。この試験で車がぶつかるバリアと呼ばれる壁には力センサが取り付けられていて、衝突時の衝撃力を刻々と計測しています。最近の車は衝撃吸収ボディといって、衝突すると車体の前部がゆっくりと壊れていくように設計されており、これが車内の人間にかかる衝撃力を小さくしています。このボディが衝突する様子を力センサで計測すると、時間の経過と共になだらかな丘のようなカーブを描きます。これが車体をできるだけ頑丈にしていた昔の車では、ぶつかった直後にピークがきてすぐにすとんと落ちるような変化を示します。車体の重量と衝突時の速度が同じならば、このカーブで囲まれる面積はどちらの場合に同じになります。急な衝撃がかからないカーブを描くように、試験を繰り返しながら設計していくのです。 ただし、これは衝撃力が一点に集中した場合の理論上の話で、実際には衝撃力は面にかかります。その全体をなるべく忠実に把握できるように、バリアのなかには約十個の力センサが埋め込まれています。各センサが捉えた衝撃力の変化と車の壊れ方を対照してみることで、より正確に車の構造のよしあしが発見でき、人に優しい設計の車を開発できるのです。
さて、最後に職人の技を盗む力計測の話をしましょう。キャラメルやチョコレートは味もさることながら、かみ心地が売れ行きを大きく左右するといわれています。さまざまな原材料を練り合わせて固めながら製品を作り上げていくのですが、ロットやラインが違っても出来具合は一定の質を保っていなければなりません。かつては熟練者が長年かけて鍛えたカンで原料や工程の加減していました。ところが、このように職人気質に支えられていた産業ではどの分野でもそうなのですが、後継者が育たない上に定年でやめていく人が増え、かみ心地を定量的に測定し標準化することが求められるようになってきました。まず、練り合わせるとき羽根のついた棒を使い、これにかかる抵抗力で練り具合を測定します。ついで練り上がったものに棒を突き刺してから一定速度で引き上げて、それに要する力から仕上がり具合を判断するわけです。計測自体は簡単でしたが、懐の深さを感じさせる仕事でした。ストレインゲージが、非常に簡単な原理故に多方面に幅広く応用されているのに似ているような気がします。
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