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コラム
計測の世界

第4回:自然をはかる
 もう昔の話になりますが、雲仙の普賢岳が噴火し、流失した大量の溶岩が大きな被害をもたらしました。火山の活動は噴火後も依然として活発で、被害の拡大を防ぐためには地中の溶岩の動きを、できる限り正確に把握することが急務となりました。このときに使われたのが傾斜計という計測装置です。傾斜計というのは、重量計を用いてこれに垂直な方向の力だけをはかるセンサです。傾きの割合に応じて測定できる方向の(つまり垂直方向の)力が減ってくる仕組みになっています。東京大学と九州大学の観測陣が普賢岳の山腹15カ所にこの傾斜計を設置し、変化の様子をデータロガーという電池式の記録装置に記録しました。そして計測記録結果を元にそれぞれの地点での傾きを算出し、山全体の膨らみ具合や溶岩噴出量を推計したのです。このときの推計結果は、後の実測で得られた結果と非常によく一致していました。

 これとよく似たものに、地滑りを予測するためのパイプひずみ計という計測器があります。直径約3cm、長さ10cmほどの塩化ビニールの筒に、ひずみ量を電気抵抗値ではかるストレインゲージを張り付けたものです。地盤が動くと塩化ビニールの筒に力が加わりそのひずみ量から地中の動きを計測します。このパイプひずみ計を地盤の中にしっかりと埋め込み、地表からは見えない地中の動きを捉えるのです。地滑りが起きそうなところには、パイプひずみ計を何本も数珠繋ぎにして埋め込みます。こうすることで、それぞれの位置でのひずみ量から全体の動きを推測でき、予防対策もとりやすくなるわけです。

 最近は携帯電話の普及やインターネットなどの通信インフラの整備で、遠隔地との通信が安く速く安定してできるようになりました。この技術で恩恵を受けている例のひとつに水田の水管理システムがあります。ご存じのように、米作りで重要なのは水の管理です。1995年の冷害で米が大打撃を受けたときにも、水管理をしっかりとやっていた農家では相対的に被害が小さかったといわれています。たとえば、稲の穂がでる前の時期に寒い日が続きそうだと、田に多めの水を張る「深水」といわれる対策を行います。水が熱を蓄えて稲を守ってくれるからです。雨が続きそうなときには水を抜くなど、冷害でなくてもこまめな管理を行わないと反収は上がりません。

 ところが、困った問題が発生しています。最近の都市近郊では、米作りの意志があっても宅地化などで難しいというケースが増えてきています。やむを得ず都市部の田を売って代替田を買うことになるのですが、土地の値段が上がっていて希望の広さの田が買えないことがほとんどです。必然的に遠くの田を買うことになるのですが、田が遠くにあるとこまめに水管理を行うことが難しくなってきます。自宅と田とが100km近く離れていたり、中には新幹線で田まで通うといったような、サラリーマン顔負けの農家も生まれつつある時代だけに、遠距離でもきちんとした水管理ができるような遠隔制御システムのニーズがが急速に高まり、実用化されようとしているのです。

 田の水位は、田の底に防水型の圧力計を設置し、圧力計にかかる水圧から計測できます。このデータを水温、気温などと共に都市部の農家へ送ります。都市部の農家はそれらのデータから判断し、給排水制御装置に適切な指示を与えることで水管理を行うのです。データや指示の通信には、特別な免許のいらないごく簡単な無線装置や携帯電話が使用されています。

 実はこのシステムは山奥のダムの水管理で使われているものと同じ技術が使われており、全く目新しいものではありません。ダムのシステムは専用のために数100万から数1,000万円かかりました。これが携帯電話などを利用すると、数10万円でできるようになったのです。

 同様に、気象観測も計測機器の無人化技術が進み非常にきめ細かな観測ができるようなった分野のひとつです。例えば雨量計には、日本庭園でよく見られる「ししおどし」と同じ仕組みを使った「転倒升雨量計」という無人計測器が使われています。転倒升雨量計には同じ大きさの枡が二つ並んでいて、シーソーのように片方が下がると他方が上がります。上になっている升に雨を受けるじょうごから水が入ってきて、いっぱいになると重みで下がって水が流れ出ます。と同時に他方の升が上がり雨水を受け始めます。この転倒升の振れを電気接点のオン・オフで数え、升の容積と掛け合わせることで雨量を計測するわけです。

 雨受けのじょうごは直径20cmの円形で、一個の転倒升の容積は15.7ml。最小雨量は毎時0.5mmまで観測できます。最大の方はどうでしょうか。気象庁によると10分間雨量で観測史上最大は1946年に四国の足摺岬で降った49mmでした。当時から転倒升雨量計があったとして計算してみると、約6秒に1回の割合でかたかたと動いていたことになります。ずいぶんせわしないししおどしですね。でもこの転倒升雨量計のおかげで、かつては人が一定時間ごとに貯水升を取りだして目で目盛りを読むしかなかった雨量計測が、完全に無人でできるようになったのです。

 地球環境問題が声高に叫ばれて、もうずいぶんな歳月が経ちます。人々の努力で改善した問題もありますし、新たに発生した問題もあります。私たちは計測・制御・分析・記録・通信など、これまでの社会との関わり合いの中で学んだ技術を応用して、大気・水質・振動・騒音など環境に関するさまざまな機器を生み出してきました。近年ますます環境に対する社会的関心が高まっており、こういったニーズに応えることが私たち計測制御に携わる者に課せられた責任だと認識しています。当社でも開示区分のひとつに「環境」を設け、積極的にこのテーマに取り組んでいく決意をアピールしています。今後も計測制御技術をベースに、多くの人々に貢献できる機器を創りだしていこうと考えています。

はかる N0.53 掲載

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